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大人の愛:ブラームス交響曲 第四番 第二楽章

ブラームス 交響曲第四番第二楽章 を聴くとき

私の頭の中ではこんな風景が浮かんでいます。

 

森の中を散歩する二人。時間は夕暮れどき。秋の初め。色づいた木々が夕日色に染まっている。話をすることなく歩を進める二人。特に行くあてもないのだけど、家には帰りたくないのだ。とても静かな時間。聞こえるのは二人が踏みしめる落ち葉のカサカサいう音くらい。

 

サーっと風が吹く。木々がざわめく。静かに歩いている二人だが、心の中では溢れんばかりの思いが叫びたくなるほど切なく響いている。声に出さない気持ちに押しつぶされそうだ。折り重なるように優しく層をなす想いが胸のなかでどんどん膨らんでいく。もう胸の内に押さえ込んでおくなんて出来ないほどに高まる二人の想い。

 

彼が口をひらく。最近どう?口から出る言葉はたわいもないこと。彼の一言一言はとても優しい。その真綿で包み込むような優しい言葉の意味を噛み締めるほどに、彼女の心は涙でいっぱいになる。愛の言葉は口に出さない。一歩を踏み出さないという決意を感じる。心の中はうねるような愛で占領されていると手に取るように分かるのに。その愛を口にしないという選択。

 

分かったわ。彼女は心の中で答える。冷静になる二人。森の景色がきれいね。そうだね。こんな風に散歩するの好きよ。僕も好きだよ。また来れるといいわね。そうだね…。そんな会話をする。静かな時間。落ち葉を踏みしめる音。

 

これでいいんだ。これでいいのよね。頭では分かっている。それなのに、お互いへの愛が更に勢いを増していくのはなぜだろう。でも。やっぱり。好きなんだ。声に出してしまおうか。一緒にどこかへ逃げてまおうか。何もかも捨てて。二人だけで。何が悪い?こんなに愛し合っているのだから。何も言葉にせず並んで歩く二人。心はお互いの事でいっぱいなまま。このままでいいのか。このままではいやだ。自問自答を繰り返す。

 

彼が彼女の方を向く。顔をあげる彼女。このまま僕と一緒に来てくれないか。君のことを心から愛しているんだ。このまま一緒になれないなんて耐えられないんだ。僕のものになってくれないか。心の中では次から次へと熱い言葉が浮かんでくるのに。口からこぼれた言葉は、ちょっと寒くなってきたね なんていうこと。こんな彼の言葉を、彼と同じく心が張り裂けそうになりながら、何も言わずに頷きながら聴く彼女。彼の気持ちは痛いほど分かった。私のことをとても大切に思ってくれていること、傷つけまいとしてくれていること、私の本当の幸せを願ってくれていること。それでも涙がこらえられない。こんなに愛する人にはもう二度と出会わない。抱きしめたまま離さないで欲しい。そう心は叫んでいるのに。

 

最後まで一言もお互いの愛を確かめ合うような言葉を交わすことなく別れる二人。

 

 

 

ブラームスの普段よく聴く曲の音のイメージとしては、「押しが強い」とか「圧が強い」と感じる事が多いのだけど、この楽章は、ものすごい大人な、相手を思いやる愛、プラトニックラブ的な雰囲気を感じます。それがかえって、強烈な愛を印象づけています。特に再現部の第二主題の所で弦楽器総出ですんごいハーモニー作ってくる所ではゾワーーーーっとしたのちに必ず嗚咽。押しが強いブラームスの押しをこらえる決意の重さが半端なくて、すごい愛なのになんもしないのが一番濃密なのかもしれない、などと考えされます。とにかく子供にはこんな恋愛はできねえ。みたいな大人の愛。

ぜひ味わってみてください。